ー耳を診断できるインストラクターになろう!ー

 ダイビングの講習中やファンダイビングをガイドしたときに、「耳が抜けない。」「耳がふさがった感じがする。」「耳が痛い。」といったお客様の訴えを、皆様も一度は経験したことがあるはずです。これらのほとんどは耳抜き不良が原因です。その他の耳のトラブルを含め、こういった時に、現場でどのように対処すべきかを今回はまとめてみました。

1.潜水で起きる耳のトラブルを知ろう。
 まず、潜水に起因して起こる耳疾患を知らなくては、診断することができません。代表的なものを取り上げて、その原因や症状を説明します。

@外耳道炎・・・図8
外耳道(いわゆる耳の穴)の皮膚に、細菌が入り込んで起きる炎症です。プールや海上がりに、外耳道の水分をとるために綿棒を使用する人が多いのですが、大抵これで傷つけ、そこに感染することが多いようです。ふやけているところに擦るので、ひとたまりもありません。いじらなくてもなる人もいますが、それは稀です。海水は通常、細菌が生えにくいのですが、緑膿菌は塩分に強く、湿ったダイビング器材など、ダイバーの身の回りには一杯います。しかも、一般的な抗生物質が効かないので有名です。海上自衛隊の潜水艦搭乗員も、緑膿菌の外耳道炎に良くかかり、これに関する医学論文が多くあるほどです。症状は耳が痛いのですが、耳介を引っ張ったり、耳の穴を押したりすると痛いのが特徴で、中耳炎や水圧による鼓膜の圧外傷と鑑別できます。予防として、エキジット後に市販のオキシドールを5〜6滴、耳の中に入れるのが有効です。治療としては、ニューキノロン系の抗生物質の内服や点耳薬が良く効き
ますので、潜水を知らない耳鼻科医に行ったときには、薬を指定してください。外耳道炎は、治るまでの3〜7日間は潜水禁止です。
 A耳垢栓塞
 1〜2年以上耳アカをためていたり、綿棒を普段よく使う人は、耳アカを耳の奥へ押し固めてしまい、潜水で外耳道に水が入ったとき、耳アカがふやけて聞こえなくなる状態がおきます。何時間かして耳が乾くと、また聞こえるようになるのが特徴で、痛みもありません。毎日のように潜水する現地サービスのガイドの人に良く見かけました。あまりひどい耳垢栓塞は、外耳道スクイーズとなり、潜水中に痛みます(OWマニュアル「圧平衡のテクニック」、エンサイクロペディア「体の空間での圧力変化に対する生理的反応」参照)。予防としては、綿棒で耳掃除をしない、半年に1回ぐらいは耳鼻科で耳アカを取ってもらうことです。治療としては、自分では絶対に取れない鼓膜の近くの耳アカなので、耳鼻科医にとってもらいましょう。耳垢栓塞の場合、聞こえが悪いだけで、外耳道炎を併発していなければ潜水に問題ありません。
B急性中耳炎・・・図7
 鼻の細菌が、耳管を通して中耳腔に入り込み、化膿したときに起こります。風邪を引いて黄色い鼻汁が出ているのに潜水しとき、耳抜き操作により感染することが多いです。そのほかの原因として、後述の中耳気圧外傷により、鼓膜穿孔を起こし、そこに海水が入り込んで感染することもあります。症状として、難聴や耳痛がありますが、重症では鼓膜が自壊し、耳だれとなります。鼓膜所見では、鼓膜が強く赤くなり、中耳腔の膿の濁った黄色が透けて見え、膿が多い場合には鼓膜が外側に張り出して見えます。治療として、抗生物質の点耳薬と内服が必要です。痛みがあるときはバッファリンなどの鎮痛剤も使うとよいでしょう。急性中耳炎が完治するには3〜4日、その後膿や浸出液がなくなるまでの7〜14日は潜水禁止です。もちろん、耳だれがあるときも潜れません。

C中耳気圧外傷
(OWマニュアル「圧平衡のテクニック」、エンサイクロペディア「体の空間での圧力変化に対する生理的反応」参照)
中耳気圧外傷とは、耳の圧平衡ができなかったり、不十分なときに起こる水圧による中耳のケガで、鼓膜や中耳腔の出血、陰圧による中耳腔への浸出液の貯留、ひどいときは鼓膜の穿孔(ピンホール)により、エキジット後に耳閉感、難聴を起こす病態です。ときに耳鳴りや、軽い耳痛を伴うこともありますが、ほとんどが「耳に水が入ったような感じ」しかありません。注意したいことは、鼓膜が破れても、破れた後はあまり痛くもないし、中耳腔の浸出液も穿孔部位より排泄されて、さほど聞こえも悪くないうえ、教科書的なめまいも自覚しない人の方が多いことです。たまに、耳の穴から少量の出血を認めたり、鼓膜穿孔に気づかずに反復して潜り続けてけて初めてめまいを感じたり、穿孔後には耳抜きをしなくても快適に潜れたと言う人がいます。あまり重症感がないことが多く、うっかりそのまま潜水を続けていると、前述の緑膿菌による、難治性の中耳炎(鼓膜に穴があいているので痛くは無いのですが)になってしまいます。こうなると耳だれが止まらず、重症になってはじめて気づく人が多いのです。インストラクター、ダイブマスターの皆さんは、この項目の中耳気圧外傷を、できれば鼓膜を見ることによって、診断できるようになっていただけるのが、私の願いです。
D外リンパ漏
(エンサイクロペディア「体の空間での圧力変化に対する生理的反応」「耳とサイナスの圧外傷の治療のまとめ」参照)
 耳の圧平衡ができないときや、稀に強すぎるバルサルバ法による耳抜きによって、内耳が圧力によって破裂する状態を言います。内耳の前庭窓(卵円窓)と蝸牛窓(正円窓)のどちらかが破れ、音を感じ取る蝸牛の中に満たされているリンパ液が、中耳腔に漏れ出てしまうために、内耳の機能障害が起きる病態です。破裂した瞬間に、「ポン」という音(ポップ音)を自覚する人もいます。症状としては、ほとんど聴こえない様な高度難聴、ひどい耳鳴り、起き上がれないほどのめまいと、これによる嘔吐が、受傷直後よりおきます。ほとんど同じ症状の内耳型(メニエル型)減圧症は、ほかの減圧症と同じくエキジット後1時間以上経ってから発症するので、鑑別可能な場合が多いです。はた目からも重症感があり、ただ事ではないと気づくはずです。外リンパ漏の場合、症状のわりに緊急性はあまりなく、できれば当日中に大きな病院の耳鼻科を受診し、検査の上手術的な治療が必要です。1週間ぐらいの時間が経つと、手術をしても難聴や耳鳴りが一生治らない後遺症になってしまいます。一度外リンパ漏になり手術を受けた場合、二度と潜水はできないものと覚悟してください。手術でふさいだ穴は、簡単に再穿孔してしまう事が多いからです。受傷したのが発展途上国の場合、飛行機搭乗の問題はないので、できるだけ早期に帰国すべきです。しかし、万一内耳型減圧症の場合、飛行機搭乗はもちろんできませんので、再圧治療(チャンバー)が必要となります。ポップ音や発症時間などから、内耳型減圧症と鑑別ができない場合は、減圧症として取り扱い、念のため飛行機に乗らず、専門の医師に見てもらう方が無難でしょう。鼓膜所見では、鼓膜の内側に漏れ出たリンパ液が認められますが、原因が耳抜き不良によるときは、後述のEdomonds分類のGrade2以上の中耳圧外傷が合併しており、中耳圧外傷による浸出液との鑑別は困難です。
E内耳型減圧症
(OW,AD,RD,DM各マニュアル「減圧症」、エンサイクロペディア「減圧症」、アンダーシージャーナル「減圧症の謎を解く」参照)
 内耳は血流が限られており、稀に内耳だけの減圧症が起きることがあります。原因は深く反復した潜水、早い浮上速度などという点ではほかの減圧症と全く同じです。症状は外リンパ漏のところで述べたように、重度の耳鳴り、難聴、めまいが起きるのが普通です。エキジット後1時間以上しての発症、ポップ音の自覚がない、耳の圧平衡に問題がなかった(耳が痛くなかった)、潜水プロフィール上に減圧症のリスクがある、下痢や二日酔いなどの体調的リスクがある、高所移動にて発症または悪化したなどから、前述の外リンパ漏と鑑別できることが多いです。治療は他の減圧症と同じく現場では、移動中には純酸素を吸入し続け、できるだけ早期に再圧治療を受けるべきです。鼓膜所見では、たまたま耳の圧平衡障害がない限り、全くの正常です。
2.耳の状態を診断する。
 では、実際に耳の状態がどのようになっているかを診断し、今日このままダイビングを続けても良いか、今日は中止すべきかを判断してみましょう。実際に耳の中がどうなっているかを知るには、図9のオトスコープによって簡単に調べることができます。これらは13万円ほどする高価な物ですが、お客様へのサービス向上と、PADIインストラクターの事故回避には強い見方となるでしょう。購入ご希望の方は、耳鼻科の医師でなくては入手できにくいかと思いますので、私当てにPADIまでご連絡ください。仕入れ原価でお譲り致します。それでは、実際の症例について、以下に中耳気圧外傷のEdomonds分類を述べましたので、まずはこれを理解し、別ぺージのカラー図1〜8を参照しながら、耳の状態を診断してください。  
Edomonds分類
Grade1
Grade2
Grade3
Grade4
Grade5
Grade6

Grade1 症状のみで鼓膜所見が正常なもの(図1)
Grade2 鼓膜の充血(図2)
Grade3 鼓膜の充血と、軽度出血(図3)
Grade4 鼓膜の高度出血(図4)
Grade5 鼓室内(中耳腔)出血(図5)
Grade6 鼓膜穿孔(図6)
 これらのうち、その後に完全な耳抜き不良がなければ、Grade2までは引き続き潜水をすることは可能と、著者は考えている。しかし、中耳腔に浸出液がたまっている場合、いかなるGradeでも潜水は禁止した方がよい。耳管がほとんど開かないことを意味するからである。経験的に、この場合に潜水を続けると、Gradeが上がるばかりで重症化してしまうばかりである。
3.ダイビングに起因する耳疾患のまとめ
 今まで述べたことを、フローチャートにしてみましたので、これを参考にし、診断をしてみましょう。
注)これは、典型的な場合のみのチャートです。受傷機転や個人差により、必ずしも正しい診断にたどり着くとは限らないことをご了承下さい。あくまでも参考程度にして下さい。

ダイビングに起因する耳疾患のフローチャート

Q&A
Q:耳管が生まれつき細いために耳抜きができないというのは本当ですか。

A:インストラクター、ダイブマスターの皆さんは、一般的にどのような原因で耳抜き不良が起きるのかを、既にご存じだとは思われますが、まずはそこからお話しします。二日酔い、寝不足、風邪、反復潜水などが有名なところですが、実はアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎(蓄膿症)といった慢性的な鼻炎がベースにあり、それによる後天的な耳管狭窄症になっている方が多いのです。当院の統計では、耳抜き不良で来院され方の実に約90%が、アレルギー検査に陽性です。そして、アレルギー性鼻炎の40%弱に慢性副鼻腔炎を合併しており、逆に慢性副鼻腔炎の方の70%にアレルギー性鼻炎が合併しています。もちろん、日常生活でアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎の症状が全くない軽症な方もかなりおられますが、潜水時のみ、耳抜き不良として症状が出るのです。しかし、どんなに重症のアレルギー性鼻炎でも、よく抜ける人もかなりいるのが不思議ですね。それは、その他の要因として、耳抜き不良の方の90%がエントリーレベルという統計から、テクニック的問題もかなり大きいからです。耳管機能検査(耳抜き検査)により、テクニック的な問題と、耳管の機能が弱いかのどちらか、または両方かが簡単に鑑別できます。ほとんどの方が、これら慢性鼻炎の治療と耳抜き指導により、耳抜き不良は治ります。よくいわれる先天的に耳管が細いという人も確かにいますが、細くても潜水が全く不可能なほどに耳抜きができない人はほとんどいません。耳管の生まれつき細い人(先天的な耳管狭窄症)よりも、むしろ生まれつき耳管が開きっぱなしの人(耳管解放症)の方が問題なのです。耳管解放症はいかにも耳抜きが良さそうに聴こえますが、普段は耳抜きがよくできていても、ちょっとした風邪や寝不足などで、正常な人よりもたちまち耳抜き不良を起こしてしまいます。耳管解放症は、治療の方法が余りないから困るのです。体調にいつも気をつけ、風邪を引かないことぐらいです。耳管解放症も耳管機能検査にて簡単に診断できます。耳抜き不良のお客さんがいらしたときには、潜水医学に詳しい耳鼻咽喉医で、耳管機能検査器をもっている病院を訪ねるよう、指導してください。