質問 ダイビング前後の飲酒はいけない(減圧症になるから)と言われていますが、 どのくらい前、どのくらい後だったらいいのでしょうか?という質問を お客様からされました。 ご存知でしたら、教えてください。

解答 皆さんは、アルコールがどのようにダイビングに影響するかは、すでにPADIの各教材で学んでこられたと思います。ハイポサーミア(低体温症)に陥りやすい、浅い深度で重度の窒素酔いを起こす、そしてご質問のように減圧症のリスクが高まる事は周知の事実です。アルコールは脱水作用と血管拡張作用があり、いずれの点からも潜水前後の飲酒は減圧症を起こしやすくなるのです。ダイビング前後の飲酒について、潜水医学の見地から具体的な時間の提言はなされていません。そこで私の個人的意見を述べさせていただきますと、潜水前の飲酒については、血中アルコール濃度がゼロの状態が理想です。それは飲酒量とアルコール分解速度の個人差に関わりますが、飛行機パイロットの基準を流用して、潜水24時間前から飲まなければまず安心でしょう。24時間以上あいていても、もちろん二日酔いを残していればやめるのは当然です。また、ダイビング後の飲酒については飛行機搭乗に準じると考えていただければ良いと思います。ようするに、単一潜水後は12時間あけて、また複数回の潜水をしたダイバー、または減圧停止を必要とする潜水をしたダイバーは、12時間よりもさらに長くあけた方が安心でしょう。ただし、減圧停止が必要にも関わらず、減圧停止をせずに浮上したダイバーは、24時間以上あけた方が無難かと思います。しかし、中には無減圧潜水3日後に深酒をし、重度の減圧症になった事例を聞いたことがありますから驚きです。ですから、ダイビイングシープラナーやダイビングコンピューターと同じで、個人差や健康状態により絶対に安全な時間などというものは決められないと思います。

本年度は「潜水事故ゼロ」という今年のテーマに基づいて、PJレポート1〜3号で述べてきました。今回はまとめとして、スポーツ医学的な見地から、ダイビング参加当日のセルフチェックをご紹介してみたいと思います。現在のPADIの基準では、ファンダイブにせよ講習にせよ、お客様の申し込みの時点で毎回病歴診断書を事前に提出していただき、「Yes」の項目があっても前回と同じ内容で健康状態に変化がなければ、新たに医師の診断を受けなくても、1年間は同じ診断書が有効であるという様になっております。これは他の指導団体からみるとかなり配慮された安全なシステムです。しかし、現実としては風邪や寝不足、過労などの急な当日の体調不良から起きる事故もかなりあるのです。そこで、最近のスポーツ医学会で推奨されている、スポーツイベント当日の体調チェックをダイバーにも流用することは、潜水事故の予防という観点から非常に大切ではないかといわれてきております。それは次のような項目からなっております。「スポーツ参加当日のセルフチェック10ポイント」1.熱はないか。ない・ある。2.体はだるくないか。だるくない・だるい。3.昨夜の睡眠は十分か。十分・十分でない。4.食欲はあるか。ある・ない。5.下痢をしていないか。していない・している。6.頭痛や胸痛はないか。ない・ある。7.関節の痛みはないか。ない・ある。8.過労はないか。ない・ある。9.前回のスポーツ(ダイビング)の疲れは残っていないか。残っていない・残っている。10.今日のスポーツ(ダイビング)に参加する意欲は十分にあるか。ある・ない。以上の項目中、1つでも解答の右側にマルがついた場合は、当日のスポーツの参加は避けて、休養をとり、1週間以上症状が続いている場合には、医師の診断を受けて下さい。(日本臨床スポーツ医学会)。このチェックシートを当日お客様に記入していただき、署名をしていただければ、事前にリスクを回避できるばかりでなく、病歴診断書同様、リスクマネージメントの観点からも有用な書類となるでしょう。

PJレポート3号「透析患者さんのダイビング」についての追加文 前回ご紹介した記事について、潜水医学専門医の方々から以下の点をご指摘いただきましたので、追加掲載させていただきます。 1. 析専門医とよく相談してダイビングの許可が得られた場合でも、出先での急変に備えて近隣の透析施設を調べておき、かつ主治医の紹介状を持参することは万一のために必要です。 2. 透析患者さんは、透析を行うために動脈と静脈を吻合させた「シャント」を手術的につくってあります。この部分はウエットスーツの圧迫などでつまってしまうリスクがあるために、何らかの特別な方法で保護が必要です。この保護方法は特に確立されていませんので、透析専門医と相談の上工夫を要します。 3. 保険医療という観点から、ダイビングのためだけに、出血傾向を起こさない透析液や貧血を改善させる増血剤(エイリスロポイエチン)などの高価な薬剤を使用することは、あまり推奨されるべき事ではありません。その辺のご配慮をお願いいたします。 尚、透析患者さんの潜水適正については世界的に何の基準もないのが現状です。前回の掲載記事及び今回の追加文は、色々な専門医からのご意見を参考にした、あくまでも私個人の考えであることをご了解下さい。