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一般の医師と潜水医学専門医との診断のくい違い
皆さんは、ダイビングによってお客様に健康上のトラブルが起きた時、その症状によっては適切に医師への受診を勧めている事と思われます。しかし、潜水を専門としない医師によって下された診断に疑問を感じたり、中にはダイビングそのものを永久的に禁止されてしまうようなことを経験された方もあるかと思います。潜水医学を専門とする医師から見れば診断に大きな食い違いがあることがあり、本来ならば治療によって再び問題なくダイビングに復帰できうるダイバーが、本当にダイビングをやめてしまったと聴くことすらあります。そこで今回は、お客様が受けた一般の医師からの診断名から考えられる違った疾患の可能性について、今までの私の経験からまとめてみました。潜水によるトラブルの約70%が耳鼻科領域のものであるため、やはり耳鼻科関係の疾患が多く問題になりました。 1. 「急性中耳炎」または「滲出性中耳炎」などの中耳炎という診断 最も多い食い違いです。一般的に中耳炎と診断されるダイバーのほとんどが中耳気圧外傷なのです。確かに飛行機による耳の圧平衡障害を航空性中耳炎などと呼んだ時代もあり、気圧外傷をも中耳炎というカテゴリーに含めれば、あながち間違えではありません。しかし、今では気圧外傷ともっぱら呼ばれています。PJレポート1号でもお話ししたように、これは耳の圧平衡が出来ないために、鼓膜に水圧がかかって鼓膜の発赤や充血、中耳腔への滲出液や血液の貯留が認められる状態です。一般の医師から見れば、確かに鼓膜は充血し滲出液がたまっているので、ばい菌による急性中耳炎と診断してしまいがちですが、中耳気圧外傷は単なる打ち身やアザのような物で、本当はばい菌がいないのです。ですから抗生物質、鼓膜切開、カテーテルによる通気治療は一切不要です。むしろ怪我や内出血の時に効くような消炎剤や、中耳腔内の滲出液を排出させる繊毛運動機能亢進薬で十分でしょう。むしろ鼓膜を切ると、電子顕微鏡レベルでは1年間は鼓膜が完全に再生しないので、わずかな耳抜き不良でもすぐにピンホールを起こしてしまうような弱い鼓膜になってしまうのですから、ダイバーは鼓膜切開をなるべく受けない様にして下さい。確かに切開を受けるよりも切らない方が滲出液の抜けが遅いのですが、その結果として1年ほどの長い間ピンホールの心配をしなくてはなりません。完全なダイビング復帰は、鼓膜を切った方が結局は遙かに遅いというわけです。本当に中耳炎なのか、中耳気圧外傷ではないのか、万一滲出液があるにしても鼓膜切開が本当に必要な状態なのかを再検討してみるべきです。相談を受けたお客様へは、鼓膜を切らないで治してもらう様、医師に伝えましょうとアドバイスして下さい。 2. 「突発性難聴」または「メニエール病」という診断 外リンパ漏と内耳型減圧症は、激しい耳鳴り、難聴、めまいが潜水中や潜水後に起きる病気です。潜水医学の知識が乏しい医者にゆくと、これを突発性難聴やメニエール病と診断し、的はずれな治療を行って、本来ならば治しうる大事な時期をのがしてしまい、二度とダイビングが出来なくなったり、一生の後遺症が残ってしまうことがあります。すでに皆さんはこれらの病態をご存じかと思いますが、一応説明しておきます。外リンパ漏はPADIの各テキスト、エンサイクロペディアやナレッジワークブック上では内耳窓破裂、正円窓または卵円窓破裂として記載されておりますが、これは耳抜き不良のために、鼓膜が破れるより先に内耳が破裂してしまう状態です。1週間程度の経過観察の後に改善が認められない場合、手術しないと一生治らない耳鳴り、難聴、めまいが続く病気です。特にこの病気は手術をしてみて、確かにリンパ液が内耳の破裂によって漏れだしているのを確認しないと最終的に診断できない病気であるため、外来での診断が難しいものではあります。ですから潜水によって引き起こされたことや、内耳が破裂するときのポップ音の自覚、耳抜き不良があったことなどから推測するしかありません。また、内耳減圧症に関しては、特に内科系の先生はめまいや耳鳴り難聴とくれば即座にメニエール病と診断し、放って置けば治る上、これは反復する病気だからしょうがないとまで言われてしまう場合があります。内耳減圧症の別名をメニエール型減圧症ともいい、はためからは全く区別できません。潜水の知識があって、減圧症というものを知っていて、潜水直後から3時間のうちにおきたようすであれば、簡単に予測できる診断です。これもゴールデンタイムとして約1週間ぐらいのうちにチャンバーによる再圧治療を受ければ治しうるものですが、何週間も経ってすっかり不可逆性になってしまうと、後からチャンバーに入って治療しても、もう治らずやはり一生の後遺症になってしまいます。お客様が潜水後に激しいめまい、難聴、耳鳴りが起きたときに、メニエール病や突発性難聴と診断を受けたとお聞きしたら、メンバーの皆さんは即座に潜水に詳しい医者へ再度受診することをお勧めするべきです。 3. 「風邪などの鼻炎による鼻血」という診断 皆さんは、ダイビング中に鼻出血が認められるお客様をたまに経験されたことがおありでしょう。鼻血という観点から耳鼻科医にかかると、いくらダイビング中に起きたと主張しても、やれ風邪をひいていなかったかとか、鼻炎があるからだと言われたということをよく聴きます。しかし、それではダイビングをしなくても鼻血が出てもおかしくないはずです。ダイビングによって誘発される鼻血は、サイナススクイーズ、または耳抜き不良によるバルサルバ動作のやりすぎがその原因なのです。勿論、バルサルバ動作で出てしまう鼻血は、確かにベースにアレルギー性鼻炎があることは多いのですが、耳抜き不良があるからこそ何回も息んだり、強く鼻をつまむのです。根本的に耳抜き不良の検査や治療が必要なのです。そして皆さん勿論ご存じのように、サイナススクイーズはサイナス(副鼻腔)の圧平衡が出来ないために起こる病態で、多くは慢性副鼻腔炎(蓄膿症)がベースにあることが多いのです。副鼻腔が抜けないために起きる、気圧障害による鼻血なのでから、当然この場合は副鼻腔炎の治療が必要になるわけです。ですから一般的な鼻血の治療である止血剤や消炎剤などは意味がありません。これは一時しのぎの物で、根本的治療にはならず、その後の潜水でも何回もくり返してしまいます。鼻血を反復して出すお客様がいらした場合に、医者からただの鼻炎だと言われたと皆さんがお聞きしたら、これらサイナススクーズや耳抜き不良が原因であることが多いので、その点を強調してもう一度耳鼻科の医者にかかるか、潜水に詳しい耳鼻科の医者にかかれる環境であれば、そちらへの受診をお勧めしてみて下さい。 4. 「急性副鼻腔炎」または「急性蓄膿症」という診断 潜水をして額やほっぺたが痛み、希にはその後痛みが続く場合があったり、鼻血が出たり、その上レントゲンを撮ると痛んだ場所のサイナスに影が映ったりすると、潜水医学を知らない医者がみると確かに急性の蓄膿症(急性副鼻腔炎)のように見えます。勿論、これが潜水をせずに起きたのであれば間違いなく急性副鼻腔炎ですが、潜水をして起きたことがポイントです。これはやはりサイナススクイーズを考えるべきです。特に潜降中にサイナスの痛みが起きたという自覚症状があればまず間違いないでしょう。時にはサイナスの痛みの自覚が無く、風邪気味であったりすれば、海水中の細菌による急性副鼻腔炎が起きたということも確かにあり得ますが、それほど多くありません。サイナススクイーズは、これも副鼻腔気圧障害という怪我なのですから、抗生物質はあくまでも二次的な感染予防なのであり、是非必要な物ではありません。放置していても治るのです。それよりもサイナススクイーズが起きる原因となっている、慢性の鼻炎(慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎)を治療し、再び起きないようにすることが大切です。それなのに、副鼻腔への穿刺洗浄を行ったり(よけい血が出るだけ)、中には本当に必要とは限らないのに、手術的に蓄膿を治しましょうなどと言われることもあるようです。お客様が潜水後に、急性副鼻腔炎または急性蓄膿症と言われ、針を鼻に刺して洗うとか、手術を勧められたと皆さんがお聞きしたときには、サイナススクイーズの可能性をお話しし、その手術がサイナススクイーズを起こさなくさせるためのものであるのかどうかを確認し、そうでなければやはり潜水に詳しい耳鼻科医に見てもらえれば一番であることをアドバイスして下さい。 5. 「海水かぶれ」または「湿疹」という診断 アトピー性皮膚炎があって、ひっかき傷がある人には確かに海水かぶれを起こしやすいのですが、皮膚型減圧症は同じように皮膚に発赤が認められたり、痒かったりします。この鑑別は勿論一般の減圧症と同じで、潜水直後から3時間ぐらいの内に起きたのかどうか、深い潜水や急浮上があったかどうかなどによります。そして、アトピーの場合は顔、膝や肘の内側、首などに起きやすいのです。しかし皮膚型減圧症はそのような場所に関係なく、これらアトピー性皮膚炎の好発部位とは異なる場所に起きることから推測ができます。軽症の皮膚型減圧症は放置していれば自然治癒してしまうこともよくあり、あまり一般のダイバーが気が付くことはないかもしれません。しかし中には皮膚型以外の減圧症を合併しているのに気が付かない人もいますので、注意が必要です。また、皮膚型などの軽い減圧症でも、症状消失後3ヶ月間は潜水を見合わせないと、その後も何回も減圧症に陥ったり、もっとひどい減圧症になることも考えられるのですから、的確な診断をしておかないと取り返しの付かないことになるかもしれません。お客様でアトピー性皮膚炎がもともとない、あるいはアトピー性皮膚炎の好発部位ではない場所の皮膚のかゆみを潜水後に訴える方がいらしたら、潜水プロフィールを検討し、リスクがあるようでしたら皮膚型減圧症の可能性について、念のため潜水に詳しい医師に受診するようアドバイスしてください。 6. 「腱鞘炎」または「関節炎」という診断 本来ならば持続的な痛みがあるのが減圧症の特徴ですが、なったり治ったりする、ちょっと関節がしびれているかな程度の、痛みとはいえないような症状の関節型減圧症(ベンズ)であることもあります。中には脊髄型減圧症にも関わらす、自分では肘や膝がちょっとしびれているかなとしか感じない程度の人もいます。こうなると、専門的に減圧症を診てもらえる医者に行かないと見逃されがちです。大きな病院の整形外科の医者でも、減圧症を診たことがある医者はほとんどいないといってよいでしょう。軽症の皮膚型以外の減圧症は、放置すると一生治らない後遺症を残すことがあるので、もちろんすぐに再圧治療を受けなくてはなりません。ふつうの減圧症はその症状固定後6ヶ月は潜水禁止、そして脊髄型減圧症の様に神経症状が起きるタイプのものにかかったら、ダイビングは中止した方が無難です。そういった意味から、診断が的確に下されないで腱鞘炎や関節炎の治療を受けていれば、治るものも治らなくなってしまうどころか、重症の病識がないのでまた潜ってしまい、さらに悪化させてしまうこともあるでしょう。神経症状が起きるタイプの減圧症は、自己診断もある程度可能です。症状は温度、痛み、触る、圧迫といった刺激に対して、手足の皮膚が感じにくくなるのがその症状です。特に左右差があるかどうか、そして末梢に行くほど感覚麻痺がひどいかどうかでかなり診断できます。このような感覚麻痺があれば迷わずDANのホットラインへ電話して、最寄りの再圧施設を紹介してもらうなど、適切な指示を受けましょう。 7. 「虫歯」または「歯の知覚過敏症」という診断 潜水中に毎回歯が痛むダイバーが歯医者に行くと、冷たい海水による歯の知覚過敏症だといわれたり、虫歯のせいにされることがあります。もちろん本当にそういう人もいますが、エキジット後は治ってしまう人の中には、かなりの確率で歯のスクイーズであることがあります。このような疑いの方を、私の耳鼻科医院が入っているクリニックビル内の歯科の先生にお願いすると、実は歯のスクイーズであることを時々経験します。以前はここにDANの歯科医もいらしたので、よく歯のスクイーズの患者さんを経験したと聞きました。歯にかぶせものや詰め物(クラウンやインレイ)をするときに空気が入ってしまった状態でかぶせると、そこのわずかな空間が気圧の変化によって収縮し、スクイーズを起こすために歯が痛くなるのです。中には昔のクラウンやインレイの中が本当に虫歯になっていて空洞ができ、それでスクイーズが起きることもあり、この様な場合、一般の歯医者は歯のスクイーズとは知らなくても、痛みがあれば虫歯を疑って結局クラウンやインレイを取って点検し、虫歯があれば治療をやり直すので解決してしまいます。これならば本人も治療している歯医者も知らないうちに治ってしまうのでよいのですが、時に、虫歯によるクラウンやインレイの治療が終了した直後に歯のスクイーズを起こした場合、歯医者に言わせると虫歯はきちんと治療したのだから、歯の知覚過敏症だから仕方ないと言われてしまうことがあります。このようなときにはDAN加盟の歯医者に診てもらわないと解決しませんので、そのようにお客様に勧めてください。 8. 耳抜き不良に対する鼻中隔湾曲症の見解の違い 最後に、診断の違いとは異なるのですが、よく聞く見解の違いを一つ取り上げます。ときに、耳鼻科領域で鼻中隔彎曲症(鼻曲がり)がダイビングに問題になるかどうかが論議されます。潜水医学の教科書の中には、これによって耳抜き不良を起こすことがあるので手術をした方がよいと書かれているものもあります。そしてダイバーが耳抜き不良で耳鼻科にかかったときに同じ様なことをいわれ、手術をしなければ潜れないようなことまでいわれることすらあります。しかし実際には鼻中隔彎曲症は耳抜きには全く関係がりません。耳管の開口部は上咽頭と呼ばれる、鼻の奥で穴が2つから1つになったのどの始まりのところにあり、左右の鼻の穴の広さは関係しないのです。そもそもバルサルバによる耳抜きは両方の鼻をつまんで行うのですから、たとえひどい鼻中隔彎曲症で、片方の鼻が完全にふさがっているような人でも、広い方の鼻だけをふさげば耳は抜けることになるのです。鼻中隔彎曲症の手術適応は、鼻づまりがひどく、本人が日常生活で支障をきたすかどうかによるのです。例えばいびきや、鼻づまりで口呼吸を余儀なくされるなどです。また蓄膿症の原因として明らかであるのであれば、手術を考えてもよいでしょう。万一お客様が鼻中隔彎曲症の手術を勧められたとお聞きしたときには、耳抜き不良の改善目的ためだけの手術ならば、決して必要ないことをお客様にアドバイスしてあげてください。 |
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