第1回テーマ「潜水事故の現状報告と分析」 毎年3月に、前年度の潜水事故の分析がDAN JAPANより発表されます。これによると国内における平成11年度の潜水事故死亡・行方不明者数はダイバー人口60万人に対し20人(3万人に1人)であり、平成11年度の交通事故死者数は人口1億3千万人に対し1万人(1万3千人に1人)であるので、これに比べれば2倍以上少ないといえます。しかし逆に言えば、身の回りで交通事故が決して珍しくない出来事であるように、ダイビング死亡事故は交通死亡事故確率の2分の1弱程度の確率で起きているのであり、決して他人事とはいえません。最近10年間の潜水事故についてのDANの分析を要約してご紹介いたしますので、皆様の安全対策の再確認になれば幸いです。きっと皆さんが普段考えておられる数字とは違った一面が発見できるでしょう。 1. 事故の推移 最近10年間の事故者平均数は年間51人であり、うち死亡・行方不明者数は24人で死亡率は48%に昇ります。おおよそ事故者2人につき1人弱が死亡してしまうのです。最近5年間は減少傾向でしたが、平成11年はまた増えています。事故発生状況別で見ると、以前は溺水が最もかったのですが、近年では漂流が増加してにわかに1位となっています。しかし漂流の死亡率はかなり低く7%位であるのに対し、溺水の死亡率は70%と高いのです。 2. 事故者の男女比。 過去10年間の事故者の男女別平均比率は男性70%、女性30%であったのですが、平成11年は女性事故者数が36%に増加しています。ダイバー人口比から見て、わずかに女性の方が事故率が低いようです。 3.事故者の年齢 年齢別で見ると、20才代が常に一番多く、次に僅差で30才代が続きます。20才未満の事故者数が最も少なく、60才以上の事故者のほとんど100%が死亡事故です。20〜30才代が大半の事故を占めますが、ダイバー人口比率から見て決して比例していない高い事故率といわれています。近年高齢者のダイバーの増加が目立ちますが、高齢者の事故はほとんどが死亡事故であることに注意が必要です。  4.スキューバダイビング歴 ダイビング歴1年未満の事故者がほとんどの年度でダントツ1位でその死亡率も一番高いのですが、これに続き潜水歴10年以上の事故者がかなり目立ちます。エントリーレベルのビギナーに事故が多いのはもっともです。しかし、キャリアが長いベテランほど手が掛からないと考えがちですが、実は高率に事故を起こすので要注意なのです。 5.経験タンク数 やはりビギナーの10本以下が事故率ダントツで1位で、死亡率も高いのですが、死亡率が低いとはいえ、実は100本以上500本以下の事故がこれに続くことが近年多くなってきました。しかも平成11年度では501本以上の事故者も僅差で第3位です。ダイビング歴と同じように、皆さんは今まで経験本数が多いお客様だからといって安心していませんでしたか?いくら死亡率が低いとはいえ、実は100本以上の方も500本以上の方も事故率は高いのでかえって要注意なのです。経験レベルの低下があるのかもしれません。 6.過去の最大経験深度 年度にもよりますが、これまでは事故者の過去最大経験深度は21m〜30mのダイバーが目立ちましたが、最近の傾向では31〜40m、41m以上を経験しているダイバーの事故者が目立ちます。従来、日本人ダイバーは諸外国のダイバーと比べるとそれほど深い潜水は好まない傾向でしたが、一部のマニアックなダイバーがディープダイビングを好むような傾向にあるのかもしれません。PADIに限らず、近年では多くの潜水指導団体がファンダイバーの最大推奨深度は30mとうたっているので、この様な安全に対する取り決め事を犯す性格のダイバーは、事故率が高いといえるでしょう。 7.Cカードのランク これはもちろんエントリーレベルのダイバーの事故率が圧倒的に多いのですが、死亡率から見れば、常に上級ランクのCカード保有ダイバーの方が50〜60%と高死亡率です。皆さんも現場では確かにエントリーレベルのCカードのお客様に対しては十分な注意を払うでしょうが、上級ランクのダイバーにはどのくらいの注意が向けられていますか?事故率は少なくても起こせばかなりの死亡率ですので、かえって注意が必要なのではないでしょうか。 8.事故発生時の水深 事故発生時の水深は、ここ4年間は5mより浅い深度が第1位です。平成11年の事故の50%を占めています。しかもその死亡率はおおよそ50%以上です。メンバーの皆さんの中にはディープダイビングほどリスクが大きい、浅いほうがより安全だとお考えの方がいらっしゃったのではないでしょうか。  9.事故発生時の海象の状況 事故発症時の波浪状況は、そもそもダイビングが良い海象状況で行われるためか、例年とも0〜0,1mの波浪において半数以上の事故が起きています。しかし、2.5〜4mの波浪状況下での事故が13%もあり、いかに潜水計画の無謀さがあるかを物語っています。また、事故発生時の透明度別では、10m以上の事故が48%を占め、決して悪い透明度だけが事故の要因ではないことが分かります。これら海象状況がよいにもかかわらずかなりの事故があることは、それだけで安心しきっていないかどうかの戒めになると思います。 10.事故の直接原因 従来では、技量の未熟、バディ不尊守が目立っていましたが、最近ではこれらは減少し、海象・気象不注意が増加して1位になりました。エアー確認不注意、監視不十分、体調の不注意は以前から上位を占めております。これらはダイビングリーダーであるインストラクターによる所が大きいはずです。体調面でも、お客様の不調をいち早く発見し、適切な対応があれば簡単に事故は防げるでしょう。 11.事故の間接原因 これは以前から50%以上が本人に関する不注意で、1位です。その他には気象・海象・海域に対する不注意、体調に関する不注意が上位を占めています。これらをアシストするのが我々プロフェッショナルダイバーではないのでしょうか。今一度気を引き締めて望むことが必要でしょう。  まとめ  以上をまとめて要点を述べてみますと、次のようになります。「最近では溺水よりも漂流事故が増えている。しかし溺水事故の多くは死亡事故である。また、20〜30才代に事故が多いが、高齢者の事故はほとんど100%が死亡事故であるので注意。初心者に事故が多いのはもちろんのことであるが、上級ランクのCカード保有者、経験本数が多くダイビング歴が長い、いわゆるベテランダイバーが2番目に事故率が高い。そして透明度が良く、波のない、5m以浅のダイビングでの事故が最も多い。海象が悪いときにはもちろん事故率が高いので無理は禁物。直接・間接原因別ではほとんどがインストラクターの注意によって防ぎ得る事ができる内容である。」ということです。最後に、DANが統計結果から分析する、事故防止のための「今後の対策」のうち、インストラクターに向けたコメントを引用しますので、これを結語とさせていただきます。「インストラクター等は、ダイビング現場における直接の指導者である事を十分に自覚し、日頃から安全対策について考えておくとともに、ダイビングを開始する前には、各ダイバーの技能、健康状態及び体調を十分チェックして、各人の技量や体調に応じた無理のないダイビングを行えるよう指導しなければならない。また、インストラクター等は単に「講習をスケジュール通りにこなすもの」「ファンダイビングをガイドするもの」という考えではなく、ダイビングの現場におけるあらゆる活動の指導者として、ダイビングに関する知識・技能の普及は勿論のこと、一般ダイバーの安全意識及びマナーの向上等に努めるとともに、緊急時に備えCPR(心肺蘇生法)等のファーストエイド並びに救助法等の知識・技能を習得しておくことも必要である。」 Q&A MFAのモジュール1−3「初期の評価」のところで、「意識がなく、呼吸をしている患者」に対して初期の評価を行うときの手順としては、意識の喚起ム呼吸の確認ム脈拍の確認と進んで行きます。このときに、「意識はない」けれども「呼吸をしている」場合、通常であれば脈拍はあるはずです。意識はないけれど、呼吸があると言うことは当然脈拍もあるのに、わざわざ脈拍の確認をしなければならないのはなぜですか。 「ご質問のお客様がおっしゃる通り、呼吸があればもちろん脈はあります。CPR法(救急蘇生法または心肺蘇生法)という観点からは、脈拍をチェックする必要性はないように思えるのはごもっともです。ですが、このMFAコース全体の価値を思い出してください。救急救命士または医師の手に患者さんが引き渡されるまでの間の状態を把握し、その情報を引継の時点でより情報が多く申し送りができる事が大切なのです。そういった意味では、脈が速いとか、遅いとか、不整だとか、時々脈が抜けるなどの情報を調べた方がその後の医療現場で役立つ情報を伝えることになるのです。その他に、極端に脈が遅ければ、ケアーのサークルを行って再評価中に、脈がなくなっているかもしれませんよね。その前兆を知る事もできるわけです。ですから脈があるのは分かっていてもチエックした方がよいのです。そしてこの1−3では、このあとのCPR法の手順を活用するための、患者さんの状態を把握する基本的な、重要な練習ですから、脈拍チェックを含めた流れを癖として身につけていた方がよいと思います。その様な意味も1−3には含まれています。」